
個別ケースの検討を行う地域ケア会議では、(1)ケースの選定の流れ(2)地域ケア会議で検討するケース(3)個人情報の保護について(4)開催日程と頻度(5)会議参加者 (6)事前資料(7)会議の流れ(8)終了後の運びという一連の流れで開催されます。ここでは、8つの流れについて説明します。
Contents
(1)ケースの選定の流れ
個別ケースを選定するに当たっては、地域包括支援センターの業務から選定、もしくは市町村が選定するといった、2つの選定方法があります。
①地域包括支援センターの業務から選定するケース
総合相談等の業務を通じて地域のあらゆるケースに接 する機会が多い地域包括支援センターが適切なケースを発見することが多いと思われる。
総合相談業務を受けた中から、地域包括支援センターの3専門職種(保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員)が地域ケア会議を行った結果、地域ケア会議の機能が発揮され効果が出ると考えられるケースを選定する事になります。
②市町村が選定するケース
市町村が地域の統計や要介護認定の更新時などに、利用者の状態と給付量をもとに、地域課題を認識して、それに関するケースの提供を求める場合が考えられます。
(2)地域ケア会議で検討するケース
地域ケア会議に取り上げられるケースとして、5つのケースが事例で挙げられています。
①支援者が困難を感じているケース ②支援が自立を阻害していると考えられるケース ③支援が必要だと判断されるがサービスにつながっていないケース ④権利擁護が必要なケース ⑤地域課題に関するケース |
①支援者が困難を感じているケース②支援が自立を阻害していると考えられるケース③支援が必要だと判断されるがサービスにつながっていないケースについては、ケアマネジャーやサービス提供事業所が、何らかの困難さを感じているケースとなるので、わかりやすいケースであるといえます。
しかし、 ④権利擁護が必要なケースについては、注意が必要です。
権利擁護が必要なケースは、本人の生命にかかわり、迅速な対応が必要なケース もあるため、権利擁護の全体像を踏まえ、地域ケア会議で検討すべきケースか、高齢者の 尊厳保持、人権の救済・回復、虐待の解消のために法律に基づく対応を優先させるべきケー スか、緊急性を判断した上での選定が必要となります。
最後の、⑤地域課題に関するケースについては、市町村として潜在課題が予測される事例に焦点を当てる場合や、地域の支え合いや見守り体制の構築が困難なケース、介護支援専門員 が日々感じている地域課題などが考えられます。
そのほか、地域の人口世帯等の推計、介護保険利用状況、総合相談の分析結果、実態把握調 査結果、包括的・継続的ケアマネジメント支援内容分析結果、地域包括支援ネットワーク構 築における課題等から、地域の課題を予測したケースなどが考えられます。
(3)個人情報の保護について
地域ケア会議を開催するにあたっては、個人情報の利用が必要不可欠です。
しかし、個人情報に関する取り扱いを厳重に保護しなければならない中、地域ケア会議を効果的に開催するには、市町村が地域包括支援センターと協力しながら、地域ケア会議における個人 情報の取り扱いについての基本的な方針を定め、周知することが大変重要です。
また、例外的に、本人の同意が無くとも、収集した目的の範囲を超えて外部に提供できる法令の定めがある場合があります。
それは、法令の定めがある場合、本人の利益を守ることが優先される場合(緊急時)、個別の条例による場合といった、3つとなります。
①法令の定めがある場合(高齢者虐待など) ②本人の利益を守ることが優先される場合(緊急時) ③個別の条例による場合(災害時の要援護者支援や、 認知症高齢者、一人暮らし高齢者等の支援など) |
個人情報の取り扱いに関する基本的な方針を取りきめる際は、いわゆる「過剰反応」に ついても考慮し、個人情報保護条例を適切に解釈・運用することが求められます。
※ 「過剰反応」とは、社会的な必要性があるにもかかわらず、法の定め以上に個人情報の 提供を控えたり、運用上作成可能な名簿の作成を取り止めたりするなどの行為を指します
(4)開催日程と頻度
(会議日程と頻度)
定例の場合:ケースが定期的に生じること が想定される場合には、地域ケア会議を定例化する事が考えられます。
定例での開催のメリットは、相談事例を持ち込みやすい環境になる、スケジュールを設定しやすい、1度の開催で効率的に個別ケースの困難に対 応できるという点が挙げられます
非定例の場合:相談や通報されたケースの中で、緊急度が高い場合は可能な限り即時の開催を、入念な事前準備や調査が必要な場合は時間をかけてから開催することなど、柔軟に事例に合わせた地域ケア会議の開催を行う事ができます。
その反面、開催日程を会議開催ごとに設定する必要があり、参加者の日程調整に時間や労力等を要します。
(会議時間)
「固定した会議時間」を設定する場合と、「ケース(議題)に応じた会議時間」を設定する2つの方法があります。
地域ケア会議を「定例」で開催する場合には、「固定した会議時間」を設定する場合が多く、「非定型」で開催する場合には「ケース(議題)に応じた会議時間」で開催を行う場合が多く見られます。
(5)会議参加者
(会議構成員)
ケースの当事者や家族 、主催者(市町村や地域包括支援センター) 、事例提供者(会議によって多様) 、介護支援専門員 、介護サービス事業者 、保健医療関係者 、民生委員 、住民組織などが考えられます。
会議構成員の中から、「司会進行役」「記録役」「事例提供者」の役割を担う人の選定も行います。
(参加者の選定)
検討するケースの当事者や家族が主体であることは、決して忘れてはいけません。
しかし、本人や家族が不 在で検討を行う方が、個別課題解決の観点から有効であるケースもあり、地域ケア会議の目的ごとに、その達成のた めに最も適切だと考えられる参加者を選ぶことが不可欠となる。
ケースの当事者が地域生活を継続するうえで重要となる人物を選定することが必要となります。また、ケースごとに的確な参加者選定が望まれるため、 参加者の固定化にこだわる必要はない。
多職種を選定・招集することから、保険者(市町村)と地域包括支援センターは、日ご ろからの関係機関との連携強化・構築に働きかけることが重要となる。
(参加者の招集)
開催の主体である地域包括支援センターおよび市町村(保険者)は、外部の法人等に出席を求めていきます。
地域ケア会議の意義や効果を周知し、理解を得て、会議参加に対する抵抗感を取り除く 働きをすることが重要です。
(6)事前資料
(資料の意義)
資料作成の留意点が2つあります。
①事例提出者の負担を軽減すること ②会議参加者全員が共通認識を持てるような理解しやすい資料であること |
※事前資料を用意しないような場合においても、会議の際に「どのようなことから情報を 共有するか」、「どの情報についてはどの程度簡潔に説明するか」といった、伝える内容と伝え方を事前に事例提供者へ伝える事が重要になります。
(地域ケア会議で使用される資料)
地域ケア会議で活用できる資料を例として挙げます。
・アセスメントシート ・家族図(ジェノグラム) ・エコマップ ・時系列整理 ・フェイスシート ・生活機能評価表 ・課題整理表(課題抽出過程とその優先度を可視化)など |
(7)会議の流れ
(個別ケースの検討を行う地域ケア会議の流れ一例)
能動的に、「地域の目標」の達成を目指し、地域ケア会議を運営していくこ とであり、実績づくりのためだけに会議は行わないということ です。
ここで、個別ケースの検討を行う地域ケア会議の流れの例が長寿開発センターが作成した「地域ケア会議運営マニュアル」にある全体の流れを元に、私が作成した「地域ケア会議の流れ」を載せておきます。
※クリックするとダウンロードが始まります。
以下、地域ケア会議の流れの一つずつの説明となります。
(司会進行役の視点)
・会議の目的を明確にし、検討を促進させる
・多職種協働であるメリットを最大限に生かす
・情報を整理し、参加者の中にブレなく共有させる
という視点を持ち、司会は会議をコントロールさせる役割があります。
(ケース概要を共有する)
・事例提出者は会議参加者全員に向け、ケース概要を説明。
→説明時には、必要な情報をまとめ、相手に伝わるように説明します。
・説明後は、参加者からの疑問点や共有した情報を交換する時間を取る。
→ホワイトボードやパワーポイントを使い、「見える化」すると理解促進に役立ちます。
(課題の明確化と対応の検討)
ケース当事者の体験している課題とその背景を明らかにし、課題が軽減あるいは解決した想定を行い、目標を設定します。その後、その目標を達成する為の支援や対応を検討します。
<必要な視点>
・本人、家族、地域の強みを活用
・本人の過去~未来の生活歴
・本人が所属するシステム(家庭、集団、地域)と相互作用
・課題の緊急性や実現可能性等の要因から優先順位を判断し、優先順位の高い課題から目標に至るための支援や対応方法を検討
(明確な役割分担)
支援や対応の検討が決まったら、「誰」が「いつまで」に「どのような支援や対応」を行うのかについて明確にする必要があります。
また、担当者が納得して役割を担えるようにすることが重要です。
(モニタリング)
支援や対応の状況や結果等に関して、どのようにモニタリングをするのかを決定します。
ここでも、「誰」が「どのように」行うのか、またその情報を誰に集約するのかを明確にするとともに、必要に応じて地域ケア会議の開催の可能性を共有しておきます。
(決定事項の確認)
会議終了の際には、検討内容や役割分担等についての再確認を行います。
また、会議内で課題の解決が望めなかった場合や、ポイントが絞り切れなかったという 場合は、再度地域ケア会議にかけ、検討を行うことなどを参加者に確認する、といったことが重要です。
(8)終了後の運び
(記録作成・管理)
地域ケア会議終了後に、主催者(包括)が会議の記録を作成します。
ここでは、検討して決定した事項のみならず、地域課題や高齢者等の課題に対する有効な支援などを把握できるた めの情報を記録として残す必要があります。
(事例提供者へのサポート)
地域ケア会議で検討して決定した支援や対応を実施する際に、事例提供者のニーズに応 じてサポートを行います。
※事例提供者以外にもにも、参加者や関係機関などで、目標の達成の為にサポートが必要な場合には、適切なサポートを行います。
(モニタリング)
介護保険の適用あるなしに関わらず、モニタリングを実施します。
モニタリングは、事例提供者がサービス事業者からの報告・連絡、あるいは事業所への訪問、利用者からの意見聴取・訪問などの手法を通じて定期的に実施します。
※もちろん、モニタリングは永遠に行うわけでなく、モニタリングを行うごとに継続・終了と判断を行ってください。
(フィードバック)
地域ケア会議を振り返りフィードバックを行う事で、関係者のモチ ベーションを維持・向上させる効果が期待できます。
地域の目標へ向けた保険者・ 地域包括支援センターの姿勢の周知個人情報に留意しながら地域の関係者にフィードバックすることは重要な意味を持つ事になります。
具体的には、モニタリングを行った結果、どうなったのかまとめた表や、社会資源や制度など周知して欲しいものがあれば、資料を添付して配布すると効果的です。
以上、長くなりましたが、地域ケア会議の8つの流れとなります。
参考資料、資料出典:一般財団法人 長寿開発センター「地域ケア会議運営マニュアル」