介護や福祉、医療の現場で日々奮闘されている皆さんにとって、「自立」という言葉は、おそらく耳にタコができるほど使われているのではないでしょうか。
しかし、私が地域ケアの現場や多くの会議に参加する中で感じるのは、同じ「自立」という言葉を使っていても、その中身が人によってまったく違うということです。
言葉は共有されているのに、その意味や解釈がバラバラでは、支援の方向性が食い違ってしまうことがあります。
今回は「自立支援で迷わなくなる」ために必要な、自分なりの哲学を持つことの大切さについて、お話しさせていただきます。
動画解説
自立って、そもそも何?
あなたにとって「自立」とは、どういう状態でしょうか?
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できることが増えること?
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サービスの利用が減ること?
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支援を受けずに生活すること?
もしかすると「全部当てはまる」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。けれど、ここにこそ混乱の元があります。
「できることが増える」というのは能力向上ですが、それはあくまで手段であって「自立そのもの」ではありません。また、「サービスの利用が減る」というのも、それが本人の望む暮らしに近づくためなら良いのですが、無理して減らすことが目的になってしまうと、本末転倒です。
そして特に問題なのが「支援を受けないこと=自立」と捉えてしまうこと。これは大きな誤解です。支援を受けながらも、自分の意思でサービスを選び、人生を歩むことができていれば、それは立派な「自立」だと私は考えています。
自立とは「生き方」である
私が考える「自立」とは――
自分の人生を、自分の意思で選び、責任を持って生きていくこと。
この軸を持つことで、自立支援における迷いが少なくなり、支援者としての姿勢もブレにくくなります。
そのためには、以下の5つのステップが必要です。
1. 自己選択 ――選択肢に気づく
まずは「自分には選べる道がある」ということに気づくことが最初の一歩です。
他人の意見や指示ばかりに従っていては、自分の人生を自分で選んでいるとは言えません。自分の目の前にある「選択肢」に気づき、その中から選ぶという行為自体が「自立」の始まりなのです。
2. 自己決定 ――自分の意思で選ぶ
選択肢に気づいたら、次は「自分で決める」という段階です。
たとえば、複数のサービスや支援制度がある中で、「自分はこれを選びたい」と意思を持って決定する。これは他人に委ねられた選択ではなく、自分の人生の舵を自分で取ることです。
3. 自己管理 ――選んだ人生を実行する
選び、決めたら、それを実行していくために「管理」が必要になります。
身体的にも精神的にも健やかに生きていくために、自分を律する力が必要です。これは高齢者でも、認知症の方でも、「できる・できない」の尺度ではなく、「どう生きたいか」をベースにした自己管理が可能だと私は思います。
4. 自己責任 ――人生に責任を持つ
日本では「自己責任」という言葉に抵抗を感じる方も少なくありませんが、これは**「すべて自分のせいにする」という意味ではなく**、「自分の人生に責任を持つ姿勢」を意味します。
「誰かに言われたからこうした」「私は真面目にやってきたのにうまくいかないのは社会のせい」といった発想からは、本当の自立は生まれません。
どんな結果であれ、それを「自分の選択の結果」として受け止めることが、人生に魂を宿すことだと私は考えています。
5. 社会参加意識 ――誰かとつながり、役割を持つ
自分で選び、決め、実行し、責任を持つことができるようになったら、次に生まれるのは「社会とつながりたい」という気持ちです。
人間は一人では生きていけません。他者と関わりたい、自分の役割を見つけたいという欲求が芽生えたとき、ようやく**「社会的な自立」**が始まります。
これは、身体が不自由でも、認知症が進んでいても、できることです。たとえば「誰かと話す」「感謝を伝える」「家族を笑顔にする」。どんな小さなことでも、そこに意味と役割が生まれます。
自分だけの「自立の哲学」を持とう
今回の話は、あくまで私の考える「自立の哲学」です。
大切なのは、誰かの定義にただ従うのではなく、あなた自身が「自立とは何か?」を考え、自分の中に軸を持つことです。
もしよければ、一度、紙に書き出してみてください。
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私にとっての自立とは?
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どんな生き方を選びたいか?
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どんな支援の使い方が、自分らしいか?
それを書き出すだけで、きっとあなたの支援の質が変わりますし、何よりあなた自身の生き方に深みが生まれます。
最後に
「自立支援」は、利用者や家族のために行う支援ですが、本当の意味では、支援者自身が「自立している」ことが求められると私は考えています。
自立した人だけが、他者の自立を支えることができるのです。
ぜひ、あなたの中の「自立の哲学」を、今日から育ててみてください。
あなたの人生も、支援も、大きく変わっていくはずです。
それでは、また次の記事でお会いしましょう。
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